第1章
周防智哉(すおう ともや)を遠くから想うだけだった私・水瀬栞(みなせ しおり)は、10年かけてやっと彼の婚約者になった。
この10年間、私はずっと彼の背中を追い続けてきたと思う。本来なら掴めたはずの将来を捨て、気づけば智哉の影のように生きていた。
「智哉のことが好きすぎて、自分をなくしている」周りにはずっとそう言われてきたし、実際その通りだった。
高校時代、私が推薦で進めるはずだった大学を蹴り、それまで縁もなかった建築の道へ飛び込んだことを、建築設計事務所で知らない人はいない。なぜなら、少しでも智哉の近くにいたかったから。
けれど、彼はいつだって私に冷たかった。
たった一度を除いて……
1年前、智哉に同行して山間部の現地調査へ出向いたとき、私たちは土砂崩れに巻き込まれた。
大きな岩が彼めがけて落ちてくるのが見えた瞬間、私は無我夢中で智哉を突き飛ばしたのだ。
意識を失う直前、最後に見えたのはひどく取り乱した彼の顔。
意識が戻ったのは3日後だった。両脚を骨折し、背中は崩れてきた岩でひどい傷を負った。手術は3回も行われ、体内には十数本のボルトが入り、一歩間違えば一生後遺症が残っていたという。
退院の日、病室の前で待っていた智哉は、何の飾りもないシンプルな指輪を握っていた。そして、プロポーズとは思えないほど淡々とした口調で私に差し出す。
「栞。君は俺の命を救ってくれた。だから、俺は君と結婚する。結婚したら夫としての責任は果たすし、これからは俺が君を支えるから」
それでも当時の私は、嬉しくてたまらなかった。結婚さえすれば、いつか彼も私を愛してくれる、本気でそう信じていたから……
だから、あのときの智哉の目に愛情がなかったことにも気づかなかった。
それどころか、10年待ち続けて、ようやく想いが報われたのだと浮かれていた。
しかし、秋葉天音(あきば あまね)が現れ、全てが変わってしまったのだった。
第1話
結婚式まで、あと10日。
私は建築設計事務所の管理部門が入るフロアで、印刷したばかりの申請書を手に坂本部長を訪ねた。
私が来たことが意外だったのか、坂本部長は少し驚いた顔をする。
私は申請書を坂本部長の前に置いた。「部長。地方創生のインフラ再建プロジェクト、まだ人員に空きはありますか?私も参加したくて」
差し出した申請書を見て、坂本部長が目を見開く。
「君、もうすぐ周防チーフと結婚式を挙げるんじゃないのか?」
「もう決めたんです。私もメンバーに入れてください」私がどうにか笑ってみせると、坂本部長はしばらく黙って私を見ていたが、やがて事情を察したように小さくため息をつき、申請書に承認のサインを書いてくれた。
「参加者は来週正式に発表される。出発は8月初旬だ……まだ時間はあるから、もう一度よく考えろ。気が変わったら、いつでも言いに来い」
「ありがとうございます」
承認済みの申請書を手に建物を出て、階段を下りたところで車のエンジン音が聞こえた。
見慣れた智哉の黒い社用車が、ゆっくりと正面玄関に横づけされる。
助手席から先に降りてきたのは天音だった。淡いベージュのワンピースに身を包み、陽の光を受けた長い髪が柔らかく揺れている。
天音は車の反対側へ回ると、降りてきた智哉の腕にごく自然な仕草で自分の腕を絡めた。
智哉もそれを自然と受け入れる。
その光景を見た瞬間、私は昔のことを思い出した。一度、40度近い熱を出した時、智哉に頼み込んで病院まで連れていってもらったのだが、途中で眩暈がして倒れそうになった私は、咄嗟に彼の腕につかまろうとした。けれど、触れた途端に振り払われてしまったのだった。
目を覚ましたのは病院だった。
あとから聞いた話では、私が倒れると智哉は通りかかった同僚に任せ、そのまま帰ったらしい。
10年も一途に追い続けて、ようやく想いが実ってよかったね、と誰もが言う。
でも、この10年で手に入れたものは彼の愛情ではなく、彼の冷たさだけということは私しか知らない。
智哉はもともと、誰に対しても無愛想で冷たい人だったわけじゃない。
ただ、その優しさが私に向けられることがなかっただけ。
天音なら彼のデスクの前でポテトチップスを食べようと、彼のマグカップを勝手に使っても怒られない。それどころか、智哉が何より大切にしている設計スケッチを散らかしたって、何も言われないのだ。そして智哉は、淡々とその後始末を私にさせるだけだった。
第2話
愛されているか、そうでないかというものは、こんなにも分かりやすい。
私は事務所には戻らず、そのまま家へと帰った。
結婚が決まったばかりの頃、私は期待に胸を躍らせながら智哉と物件を見て回ったけれど、彼は私にカードを1枚放り投げ、「好きにしろ」とだけ言った。
リビングの壁には、私たちのウェディングフォトが飾られている。智哉に撮影に来てほしいと何度頼んだか、もう覚えていないが、彼は最後まで私と写真を撮ってはくれなかった。だから結局、撮影スタッフが智哉と体格の似た男性を用意してくれ、その人と撮った写真に智哉の顔を合成した。
荷物をまとめ終えた頃には、頭がぼんやりして、立っているのもつらくなった。また熱が出てきたようだ。
そのとき、スマホの画面に智哉の名前が表示された。
「取りに戻りたいものがあるんだけど、家にいるか?」
メッセージを眺めているうちに、いつの間にか眠ってしまった。
どれくらい経っただろう。鍵の開く音で目を覚ますと、リビングにオレンジ色の明かりが灯り、眩しさに目を細めた。
外の冷たい空気をまとったまま、片手には仕事用の鞄を提げた智哉が帰ってきた。
がらんとした部屋を見回した彼の視線が、壁から外して隅に立てかけておいたウェディングフォトで止まる。ほんのわずかに彼の眉が寄った。
私はいつもの癖で立ち上がろうとしたが、足に力が入らず、よろめいた。
智哉が反射的に腕を支えてくれたのだが、私の肌に触れた瞬間、彼はすぐに手を離した。
支えを失った私は、そのままソファに崩れ落ちる。
「ひどい顔してるな」
気遣うというより、ただ目についたことを口にしただけのような声だった。
私は彼と目を合わせないまま答える。「大丈夫、少し熱があるだけだから」
「なんで荷物なんかまとめてるんだ?」
「智哉、結婚式はやめよう」
さすがに予想していなかったらしく、智哉は数秒黙りこんだ。
「天音のことか?俺とあいつは、ただの先輩と後輩でしかない。
それに、天音は君とは違うんだ。14歳で一人で海外に出て、自分の夢も仕事への意欲もあるし、ましてや四六時中、恋愛のことばかり考えてるような女じゃない」
私は何も答えなかった。智哉もそれ以上話す気はないらしく、そのまま書斎へ入っていくと、昔のスケッチブックを1冊手に戻ってきた。
玄関を出る直前になって、ようやくこちらを見る。「天音が急ぎでこれを使いたいらしいから、届けてくる。具合が悪いなら病院へ行け。無理するなよ」
閉まったドアを見つめていると、喉の奥がひどく詰まった。泣きたいわけでもないのに、苦しくて……とても痛かった。
翌日、私は仕事を休み、不動産会社に連絡して家の査定に来てもらった。
「水瀬さん、この物件は立地も間取りもいいですし、内装もまだ新しいです。この金額で出したらかなり損をしますが、それでも売却希望ですか?」
「はい」
私は躊躇いなくその場で契約書に名前を書き入れる。
「できるだけ早く売ってください」
家を売りに出したその日のうちに、私は2つのスーツケースを持って家を出た。新しく住む場所を探す気にはなれず、職場の近くにあるビジネスホテルにひとまず部屋を取った。
狭い室内には、ベッドと小さな机、それにユニットバスがあるだけ。
窓の外は交通量の多い道路で、夜になっても車の音が途切れない。
それなのに、あれほど時間をかけて整えた新居より、ずっと落ち着けた。
ここには智哉の痕跡も、彼に愛されていると思い込むために積み上げてきた、くだらない幻想もない。
私はベッドに腰を下ろすと、今度は結婚式場へ電話をかけた。
「予約している結婚披露宴をキャンセルしたいのですが」
「水瀬様、挙式まであと10日となっておりますので、今からのキャンセルですと申込金はご返金できません。それでもよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
電話を切り、狭いベッドの上で身体を丸めた。熱はまだ下がっていない。ぼんやりする頭で目を閉じると、ずっと見ないふりをしてきた記憶が、次から次へと蘇ってきた。
第3話
16歳のあの日、図書館で初めて智哉を見たときのことを思い出す。
彼は窓際の席に座っていて、差し込む光が彼を包み、柔らかな輪郭を優しく照らしていた。
うつむいてスケッチブックにペンを走らせる姿はあまりに真剣で、世界には彼と絵しかないかのようだった。
その瞬間、私の心拍数は跳ね上がった。
それから私は、何かにつけて智哉を目で追うようになった。
成績は学年でもトップクラス。
絵が得意で、将来の夢は建築家。
人付き合いは得意ではなく、必要以上に誰かと関わろうとしない。
知れば知るほど、もっと近くに行きたくなった。
高校3年間、私は智哉と同じ大学へ進むことだけを目標に勉強した。
進路を決めるときも迷いはなかった。推薦で進学できる大学を蹴り、第1志望に東都建築大学と書いた。
担任にも止められ、両親にも猛反対された。
「水瀬、君の成績ならもっと上を目指せるし、将来性のある分野だってほかにいくらでもあるだろう。建築の世界は大変だぞ」
それでも、当時の私には何も響かなかった。
頭にあったのは、ただ一つ。
智哉と同じ場所へ行きたい、それだけだった。
大学に入ってからも、私は相変わらず彼の後ばかり追いかけていた。
智哉が取る選択科目を選び、彼が入ったサークルに入り、図書館ではできるだけ近くの席を探した。
友人には何度も呆れられた。
「栞、智哉みたいな人、どう見たって恋愛に興味ないじゃん。ずっと追いかけてたって、最後に傷つくのは栞だよ」
私は聞く耳を持たなかった。
もっと頑張れば、諦めずにそばにいれば……いつかきっと、智哉の心を動かせると信じていた。
卒業を控えた頃、智哉は国内でも有数の建築設計事務所から内定をもらった。
私にも外資系企業から条件のいい内定が出ていたけれど、それを辞退して、彼と同じ事務所を受けた。
面接では志望動機を聞かれた。「なぜ、この建築設計事務所を選んだんですか?」
だから、私は迷わず答える。「ここには、私が追いつきたい人がいるからです。ずっと目標にしてきた人のそばで、もっと学びたいと思っています」
そう言いながら、面接官の端に座る智哉を見た。
彼は手元の評価シートに何かを書き込んでいて、最後まで一度も私を見なかった。
それでも私は採用され、智哉のアシスタントになった。
それから5年、資料をまとめ、細かな雑務を引き受け、飲み物を用意し、深夜まで続く残業にも付き合った。
智哉が手がけたプロジェクトには、ほとんど関わってきた。といっても、私に任されるのは補助的な仕事ばかりだったけれど、それでも嫌だと思ったことはない。
こうしてそばにいれば、いつかこの関係も変わると思っていたから。
あの土砂崩れに巻き込まれ、山肌から岩が転げ落ちてきた時、私は考えるより先に身体が動いた。
全身を激痛が襲う中で、なぜか安心したことだけは覚えている――よかった、智哉は無事だ。
意識を失う直前、ひどく取り乱した彼の顔が見えた。
「栞!栞!」
あれほど感情をあらわにした智哉を見たのは、初めてだった。
入院中、彼は毎日欠かさず病院に来てくれた。
相変わらず口数は少なかったけれど、私が退屈しないように本を持ってきたり、ベッドの角度を調整してくれたりした。看護師さんが傷の処置をするときには、何も言わず私の手を握ってくれた。
命懸けで彼を守ったことで、ようやく智哉の心に触れられたのかもしれない、とあの頃の私は思っていた。
今思い返すと、本当に滑稽で仕方がない。
第4話
3日間の休みを終え、私は建築設計事務所へ出勤した。
オフィスに入ってすぐ、給湯スペースから同僚たちの話し声が聞こえてきた。
「聞いた?秋葉さん、入ったばっかりなのにもうデザイン部の次長だって。周防チーフが所長に直々に推薦したらしいよ」
聞こえなかったふりをして、自分の席へ向かう。
席に着いて資料を開こうとしたところで、今度は隣のスペースが騒がしくなった。
「見て、これ!秋葉さんが賞を取った作品だって。所長がわざわざ大きく印刷させて、展示スペースに飾るらしいよ」
「すご……これなら金賞取るのも納得かも」
何気なく顔を上げると、数人の同僚が大判の設計図を囲んでいた。
窓から差し込む光が紙面を照らし、そこに引かれた線も、細かな書き込みも、はっきりと見える。
その図を見た瞬間、心臓が凍りついた。視線が設計図に釘付けになり、全身の血の気が引いていくのがわかった。
あの図は……
私が半年以上かけて完成させたもの!
一本一本の線も、細かな注記も、すべて覚えている。何度も徹夜を重ね、17回も修正して、ようやく納得できる形に仕上げた。
ただの設計図じゃない。これまで建築に携わる中で学んだこと、考えてきたこと、そのすべてを注ぎ込んだ作品で、ようやく見つけた私自身の夢の形でもあった。
だから智哉にさえ、まだ見せていなかった。
結婚式が終わったら見せて、驚かせるつもりだった。
見て、智哉。私だって、こんな設計が描けるようになったんだよ。もうあなたの後ろをついて歩くだけじゃない。私だって、自分の力で輝けるんだよ――そう言いたかった。
なのに今、その作品には堂々と別人の名前が記されていた。「秋葉天音」
印刷された鋭利な名前が、毒を含んだ刃のように私の胸を貫いた。
「ほんとすごいよね。さすが金賞って感じ!」
「さすが周防チーフ。よくこんな才能ある人を見つけてきたよね」
周囲ではまだ誰かが話していたけれど、もう内容は頭に入ってこなかった。
耳鳴りがして、視界が暗くなる。私は倒れないよう、とっさにデスクへ手をついた。
その場に立ち尽くし、強く握りしめた手のひらに爪が食い込んでも、痛みさえ感じない。
それ以上に、胸の奥が冷え切っていく感覚のほうがずっと強かった。
私はデスクに手をついたまま、どうにか声を絞り出した。「その設計図……私が描いたものです。半月前、社内でなくなった私の設計図とまったく同じです」
大きな声ではなかった。それでも、さっきまでのざわめきが嘘のように止まった。
集まっていた同僚たちが一斉にこちらを見る。驚いている人もいれば、疑うような目を向ける人もいた。中には、これから何が起こるのかと面白がっている人までいる。
給湯スペースにいた人たちも手を止め、廊下を通りかかった同僚まで足を止めた。
ほんの数秒で、フロア中の視線が私に集まった。
そのとき、人垣の向こうから天音が現れた。
白いワンピースに長い髪を下ろし、隙のないメイクを施した彼女は、智哉の隣に立っていた。
私の言葉を聞くと、天音はわずかに首を傾げた。一瞬だけ動揺したように見えたが、すぐに傷ついたような表情に変わる。
「水瀬さん……何を言ってるんですか?」
信じられない、とでも言いたげな彼女の声がかすかに震えていた。
第5話
「これは何か月もかけて仕上げた、私の作品です。構想から完成まで、全部自分でやりました。それなのに、どうして水瀬さんのものになるんですか?」
そう言いながら、天音の目にはみるみる涙がたまっていった。今にもこぼれそうな涙を浮かべたまま、傷ついたように私を見る。
「私……分かってます。私が周防先輩と仲がいいから、水瀬さんが私を嫌ってること……」
天音は鼻をすすり、涙声で続けた。
「でも、だからってこんな嘘をついて、私の評判を落とそうとするなんてひどすぎます。私にとって設計は仕事で、夢なんです。それをこんなふうに……」
最後まで言い切ることなく、天音は泣き崩れた。
途端に、周囲が騒然となる。
「水瀬さん、いくらなんでも嫉妬でそこまでする?」
「自分に描けないからって、人の作品を盗作扱いするのはさすがに……」
「周防チーフの前でよく言えるよね」
「秋葉さん、かわいそう。入ったばっかりなのに……」
好き勝手な言葉が四方から飛んできて、針のような無数の視線が私を突き刺していく。
けれど、私は誰の顔も見なかった。
ただ智哉だけを、じっと見つめ続ける。
少しでも迷ってほしかった。10年もそばにいたのだから、本当にそうなのかと疑って、せめて私の話を聞こうとしてほしかった。
けれど、そんな色は微塵もない。
智哉は眉を寄せ、冷ややかな目で私を見ていた。
そこに私への信用など一切なく、隠そうともしない嫌悪感と苛立ちだけが漂っている。
「栞、いい加減にしろ」静かな声だったが、ざわついていたフロアにはっきりと響いた。
「君がどの程度の設計をするか、俺は分かってる。この図面はコンセプトも技術も完成度も、今の君に描けるレベルじゃないから、君の作品であるはずがないだろ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが壊れた音がした。
高いところから落としたガラスが石の床に打ちつけられたように、冷たく、砕け散り、二度ともとには戻れない悲鳴のような響き。
10年追い続けて、5年間同じ職場で働き、命を懸けて彼を守ったことさえある。それでも智哉にとって私は、所詮その程度だったらしい。
私がどれだけ努力してきたかも、どれだけ成長したかも、彼は一度も見ていなかった。
彼の中で、私と「優秀」ということは結びつかないみたいだから。
天音はまだ肩を震わせながら泣き続けていた。
智哉は彼女にティッシュを差し出し、優しく慰める。「もう泣くな。君がやってないなら、堂々としていればいい」
けれど私に向き直った途端、表情からその優しさが消えた。
「栞、今すぐ天音に謝れ。これ以上騒ぐなら、俺も容赦はしないからな」
私は思わず笑ってしまった。
自分の表情が引きつっていくのがわかる。きっと、ひどい顔をしているのだろう。
「謝れって?
智哉。あなたは本気で、私がそんなことをする人間だと思ってるの?嫉妬したからって、盗作なんてでっち上げて人を陥れるような人間だっていうわけ?」
「違うのか?」
返ってきたのは、嘲るような声だった。
「ここ数日、散々騒いでるだろ。栞、君はいったい何がしたいんだ?」
私は何がしたいのかって?
自分の作品を取り戻したい。自分が作ったものを、自分のものだと認めてほしい。
ただ、それだけ。
なのに智哉にとって、私が何を言っても、何をしても、全部ただ騒いでることでしかないらしい。
私は一度大きく息を吸い、気持ちを落ち着かせた。
それから自分のデスクへ戻り、一番下の引き出しから分厚い革張りのノートを取り出した。